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福島地方裁判所 昭和28年(行)10号 判決

原告 日本通運株式会社

原告 日本通運株式会社会津若松支店

被告 福島県地方労働委員会

主文

一、原告日本通運株式会社会津若松支店の訴を却下する。

二、被告委員会が、訴外全日通労働組合東北地区福島支部と原告両名間の同委員会昭和二十八年(不)第一号不当労働行為救済申立事件につき、同年八月三十一日付でした別紙記載の主文を有する命令のうち、主文第四項を除き、そのほかの部分を取消す。

三、訴訟費用のうち、被告委員会と原告日本通運株式会社会津若松支店との間に生じた分は、福島県喜多方市字寺町四千七百番地訴外高橋倉市の負担とし、被告委員会と原告日本通運株式会社との間に生じた分は被告委員会の負担とする。

事実

原告等は、「被告委員会が、訴外全日通労働組合東北地区福島支部と原告両名間の同委員会昭和二十八年(不)第一号不当労働行為救済申立事件につき、同年八月三十一日付でした別紙記載の命令のうち、第四項を除き、そのほかの部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

「訴外全日通労働組合東北地区福島支部(以下単に訴外労組と略称する。)は、原告等を相手方として被告委員会に対し、昭和二十八年四月二十日付で不当労働行為救済の申立をしたところ、被告委員会は同委員会同年(不)第一号事件として審査を経た上、同年八月三十一日付別紙記載の主文を有する命令(いわゆる救済命令)を発し、同年九月二日原告等に該命令書を交付した。しかし、本件救済命令には以下に述べるような違法の点があり、無効である。

第一、地方労働委員会(以下単に地労委と略称する。)が不当労働行為救済の申立を受けた場合、その審査に入るに先立ち、先ず昭和二十四年中央労働委員会規則第一号(以下単に規則と略称する。)第二十二条以下の規定に従い、必ず申立人労働組合の資格審査を行わなければならないのであるが、右は当該労働組合に労働組合法(以下単に労組法と略称する。)上の救済を求める資格があるかどうかを定める極めて重要な手続である。ところが被告委員会が、前記(不)第一号事件の審査に先立ち、昭和二十八年四月二十一日前記訴外労組につき行つた資格審査は、その手続、内容、形式において、いずれも次のような重大な違法を犯しており、このような違法な資格審査を前提とした(不)第一号事件の審査手続は違法であり、これに基いて発せられた本件救済命令もまた違法であり、無効である。すなわち、

(一)  資格審査は地労委の公益委員会議の付議事項で、その会議招集手続につき規則第八条は、緊急やむを得ない場合のほかは少くとも前日までに付議事項、日時を通知して招集すべき旨を規定している。ところが被告委員会は、本件資格審査のための公益委員会議を、訴外組合の法人登記のため必要であるというだけの理由で、(不)第一号事件が申立てられた日の翌日である昭和二十八年四月二十一日急遽開会したが、右が、同条の定める「緊急やむを得ない場合」にあたらないことはいうまでもなく、ほかにこれに該当する事由もないのに、同条の定める事前の通知をしないで、わずかに右会議の当日電話連絡したのにすぎない。その結果、定員五名の公益委員のうち、同会議に欠席した一名についてはその欠席の事由すら不明であり、またほかの一名については同委員が右会議の開会予定時刻より三十分位遅れて出席する旨予め通知しており、これを出席委員全員が知つていながら、あえて右委員の出席をまたず開会し、資格審査を行つた状態である。このように本件資格審査のための公益委員会議の招集手続は違法である。

(二)  地労委が資格審査をするにあたつては、申立人労働組合が提出した証拠を単に形式的に取調べるのみでなく、当該労働組合が労組法第二条及び第五条第二項の規定に適合するかどうかを、具体的、実質的に審査しなければならず、このために規則第二十三条第二項は、地労委に職権による証拠調の権限を与えているのである。ところが被告委員会は本件資格審査に際し、みずからがかつて制定実施していた資格審査様式(甲第四、第五号証)に掲げられた重要な審査事項についてさえ逐一調査せず、単に訴外労組の提出した極めて形式的かつ不十分な証拠を、しかも極めて短時間のうちに形式的に取調べた上、訴外労組を適格性のある労働組合と認定した。しかし、実質的な調査をしないで、訴外労組に適格性があるかどうか到底認定しうるものでなく、本件資格審査はその内容において極めて不完全であり、違法である。

(三)  資格審査は、地労委の公益委員会議で決定しただけではまだ内部的意思決定にとゞまり、これに基いて決定書を作成し、地労委の会長がこれに署名押印することによつて、初めて決定として有効な行政行為が成立する。規則第二十五条は、資格審査の決定を要式行為として規定しており、地労委会長の署名押印を欠く決定書は当然無効といわなければならないのみならず、資格審査の性質上、右署名押印は、不当労働行為救済申立事件の審査を開始する前、あるいはおそくとも救済命令書を交付する時までには完了していなければならない。ところが本件資格審査の決定書に対する被告委員会の会長の署名押印は、右決定をしたという昭和二十八年四月二十一日から四ケ月以上経過して、本件救済命令書が原告等に交付された同年九月二日にもなおされておらず、当時なお本件資格審査は終つていなかつたものといわなければならない。すなわち、被告委員会は、資格審査が未完了でその決定の効力が生じていないうちに、(不)第一号事件の審査を終了したもので、本件資格審査は違法である。

第二、本件救済命令は、原告日本通運株式会社(以下単に原告会社と略称する。)のほか原告日本通運株式会社会津若松支店(以下単に原告支店と略称する。)をもその相手方として発せられたものであるか、次の理由により重大な違法を犯しているから、無効である。すなわち、

(一)  原告支店は、原告会社の支店として商業登記がされているが、原告会社とは独立した法人格を具えるものでないことはいうまでもなく、また原告支店には支配人登記がされていないから、本件命令書に原告支店の代表者として表示されている支店長高橋倉市は法律上代表権限を有しない。ところで規則第三十二条が不当労働行為救済申立の相手方である使用者が法人である場合にはその代表者の氏名を記載しなければならないと規定している点から考えれば、その代表者とは外部に対し法律上その法人を代表する機関であると解するのが相当であり、また本件救済命令は終局的には刑罰をもつてこれに強制力を付与されている点から考えても、法人としての独立の人格を有しない原告支店を相手方とすることはできない。被告委員会が原告支店に対して発した本件救済命令は、その相手方たりえないものを相手方と誤認した違法があり、無効である。

(二)  かりに、原告支店に右相手方としての適格があり、その支店長に代表者として資格があるとしても、原告等は法人格的には同一人であり、労組法上使用者としての責任を負う場合においても結局唯一であつて、各自別個独立の相手方として取扱われるべきものではない。このことは、かりに救済命令に違反した場合の刑事責任の帰属を考えれば明白である。ところが被告委員会は、本件救済命令において、原告等のうちいずれか一人をその相手方とすることなく、その双方を同時に相手方として命令の履行を求めているばかりでなく、その命令の内容においても、各別に別個の義務の履行を命じているのではなく、両者に対し単一の義務の履行をすべきことを命じている。このように同一の事実につき、原告会社とその組織の一部である原告支店とを重複して相手方として発せられた本件救済命令は違法であり、無効である。

第三、本件救済命令は、その主文と理由にくいちがいがあつて違法である。すなわち、本件救済命令の主文において公示及び提出を命じた陳謝文の内容には、『又右分会の脱退者等が組織した日本通運株式会社会津若松支店再建労働組合へ右分会の一部組合員が脱退の上加入したのは、被申立人等が不当に右若松分会に支配介入したことが原因であるから』云々とあつて、分会員が再建労働組合に加入したのは、原告等の支配介入が原因であることを、原告等に認めさせようとするものである。ところがその理由には、『本件においては、前記認定の通り右離脱並びに脱退若しくは第二組合の成立は、使用者たる被申立人等の組合に対する支配介入がその一因であつたことは認め得るも、これが主因若しくはその全部とは認め難いところであると判定せざるを得ない。むしろかゝる結果に立到つたことに関しては、申立人それ自体においてもその責任の所在につき十分なる自己批判並びに反省の必要あるものと断言するに憚らないものである。』とされていて、スト離脱、組合脱退、第二組合の結成等の主因あるいは原因の大部分がほかにあると認定している。従つて本件救済命令は、主文と理由が矛盾し、認定された事実と相容れない不当な義務を主文において命ずるもので、違法である。

第四、本件救済命令は、その理由において、当事者の主張しない事項を主張したものとして摘示した違法がある。すなわち、

(一)  本件救済命令の理由『第一当事者双方の主張並びに証拠』のうち、『(一)申立人の主張』として摘示されているところ、なかんずくその(A)、(B)、(C)、(D)の各項は、申立人である訴外労組においてその主張として陳述しなかつたものである。被告委員会がこれを主張したものと見たのは主張と証拠とを混同した結果で、このような観点から行われた審問が違法であることは明らかである。かりに原告等の知らないうちにこのような主張がされていたとすれば、原告等は、これに対し規則の定める弁解、反証を挙げる機会を与えられていないから、いずれにせよ本件審査は違法である。

(二)  本件救済命令の理由『第一当事者双方の主張並びに証拠』のうち、『(三)被申立人等の答弁及び抗弁』の(D)項で、原告等が再建労働組合結成の原告等に対する届出日を昭和二十八年四月十六日である旨主張したように摘示され、また同理由『第二当事者間に争いのない事実』の項で、右届出日を同年四月十六日である旨摘示されているが、原告等はそのような主張はしなかつたし、また届出日を右同日であると認定する根拠はない。被告委員会は、同年四月十一日の支店長高橋倉市の訓示と右届出とを関連させるため、証拠によらずに事実を認定したものといわなければならない。

第五、本件救済命令は、その理由において、事実の認定を誤り、また証拠によらずに事実を認定した違法がある。すなわち、

(一)  本件救済命令の理由『第三当委員会の判断』において、『右渡部業務課長が組合員たる和田文雄、酒井三郎等の自宅を訪問し、或いは鈴木欣一、長井柳一郎に面談したる目的は、単に会社事業の公益性及び営業の脆弱性を説き、その協力を求めた程度に止らずして、自己の業務上の地位を利用し、ストライキの不当乃至不法性を述べ、速かに第一組合を脱退し、ストライキを中止し、会社の業務に協力するよう強調したことは明らかで』云々と事実を認定しているが、渡部が和田、酒井等を訪問した目的はストには無関係の用務であり、また鈴木、長井はストの見透しについて不安を感じ、渡部の意見をきくため自発的に渡部宅を訪問したものであつて、渡部が、被告委員会の認定したような目的でみずから進んで面会したものでないことは、審問調書によつて明らかである。しかも、渡部が、速かに第一組合を脱退してストライキを中止するよう強調したことを認めるにたりる証拠は存しないのであるから、右認定は、証拠によらない違法があり、ないしは重大な事実の誤認である。(なお、被告委員会は、特定のストライキの不当ないし不法性を批判することまでが組合の運営に支配介入する行為であるような説示をしているが、このような批判までも禁止する意図であるとすれば、言論の自由を不当に束縛する違憲の判定であるといわなければならない)。

(二)  被告委員会は証人渋谷行雄、山口喜作、高畑重一の供述を援用して、渡部業務課長が、スト終了後始業前の点呼に際し、しばしば繰返して暗に第二組合に加入方を勧誘したため、第一組合を脱退して第二組合に加入した作業員の少くなかつた事実を認定している。しかし、第二組合の結成されたのは昭和二十八年四月四日(届出は翌五日)であり、右証人等が第二組合に加入したのは同年四月中旬から下旬にかけてゞあつて、その間同課長が二回位しか話していないことは山口喜作の供述で明らかであり、これをもつて、社会通念上『しばしば』第二組合への加入を勧誘したとはいえないし、また右証人等の供述によれば、同人等は、いずれも第二組合への加入を勧誘されたことを否定しているばかりか、結局渡部から何を話されたのか記憶になく、果して渡部が話したことか、木野勢再建組合委員長が話したことか、の区別さえできないことは反対尋問によつて明らかになつている。にもかゝわらず、被告委員会が、渡部が第二組合への加入を勧誘した、との事実を認定したのは、甚だしく失当である。

(三)  被告委員会は、支店長高橋倉市の貸付金問題につき、第一組合員が労働金庫から金銭を借入れた事実と、使用者が右組合員を除外して金銭を貸与し、不利益取扱をした事実とは、何等直接の関係もしくは影響のないこと明らかである、と認定している。しかし、この点に関する明確な事実の把握なしに、組合員なるが故の不利益取扱、特に使用者の不当労働行為の意思を認定できないはずである。高橋倉市が右金銭貸付をした動機は、一部従業員から生活の困窮を訴えられたのでこれを救済することより出たのであるが、これが多数の就労者に拡大された主因は、第一組合が労働金庫から就労者の分をも含めて借入れながら、これを就労者に対しては殊更秘していた結果、就労者の多数が高橋に右金員の貸付方を懇請するに至つたからである。また被告委員会は、高橋が右貸付にあたり、第一組合員に対し特に右貸与の申入等につき周知徹底させなかつたことを非難している。しかし、高橋は前記のように従業員の当面の生活救済のため貸出を行つたのであるから、これを周知させなければならない理由は存しなかつたし、また、第一組合員であるか、就労者であるかの観点から、後者を優遇する趣旨でその貸付を行つたのではない。第一組合員が貸与を受けなかつたのは、同組合員は労働金庫からの借入金の分配を受けていたため、事実上その必要がなかつたから高橋に対して貸付の申出をしなかつただけのことである。さらに被告委員会は、右貸付の動機、理由、貸与金員の出所等は当該貸付行為の当否を左右するものではない、と断定している。しかし、いやしくも不当労働行為を構成すべき事実の存否を認定するにあたり、その行為の動機、理由が当該行為の当否を左右しないとすれば、一体何をもつて当該行為の当否を判定する基準とするのだろうか。以上のように被告委員会が、単に支店長高橋倉市の金銭貸付けの結果のみをとらえ、その結果が出現するに至つた経緯に眼をおゝい、結果から逆に使用者の不当労働行為の意思を推定したのは、明らかに事実の認定を誤つたものである。

(四)  被告委員会は、支店長高橋倉市が昭和二十八年四月十一日行つた訓示につき、同人が十四名の従業員に対し、第一組合から脱退して第二組合へ加入するよう暗示したと事実を認定している。しかし、本件救済命令の援用する証人、当事者本人の供述によつても、右訓示の受取り方は区々であるのみならず、『暗示した』というようなそれ自体極めて不明確な事実を認定するには、客観的にそれを裏付けるにたりるものがなければならないのであつて、単に右供述者が、そのように感じた、そのように受取つた、というような主観的な感じそのものは、証拠としての信憑力が極めて薄弱であるのに、これに基いて右事実を認定したのは失当である。

(五)  被告委員会は、個々の事実の認定に急なるあまり、原告支店における従業員の組合運動の大きな動きを示す重要な事実を看過している。すなわち、スト突入後間もなく、訴外労組会津若松分会の現委員長本間一夫は、みずから原告支店の支店長に面会を申入れ、組合をあげてスト離脱を申出て身分保障を求めたのであるが、右はスト後の分会大会の決議により、一人を除き組合員全員が再建労働組合に加入したことによつて現実化したといえるのであつて、このような組合をあげての大きな動揺は、組合内部の事情に起因する自然発生的なもので、到底原告等の単なる支配介入によつて実現しうるものではない。被告委員会は右重要な事実を看過している。

以上のように本件救済命令は、前記第一に述べたようにその手続上重要な違法を犯し、かつ前記第二に述べたようにその相手方を誤つた違法を犯しているので、命令全部につき無効であるが、形式上救済命令として存在しているから、その取消しを求める。

かりに本件救済命令が当然無効でないとしても、前記第一乃至第五に述べたように、違法の点があるから、命令全部につきその取消を求める。」と述べ、

なお被告委員会の労組法上の使用者の概念についての主張に対し、「被告委員会は、原告支店の支店長が原告支店を代表して本件救済命令に認定した不当労働行為をしたことをその理由づけの一つにしているのであり、従つて被告委員会は不当労働行為制度における使用者を現実の行為者として把握していることが明らかである。しかし、労組法においては、労働基準法(以下単に労基法と略称する。)が最低の労働条件を規定し、強力な労働基準監督機構と違反行為に対する刑罰主義によつてその履行を確保することの結果、事業主のほか現実に違反行為を行つた者をも広く使用者として把握するのとは異り、法は労働条件の取引における労使の実質的平等を形成するに足りる地盤を準備し、保証するものであつて、このような集団的労働関係における主体は労働組合と使用者であるから、その場合の使用者とは、常に労働組合との団体交渉や争議行為を通じてその相手方たる立場にある使用者であり、また労働協約の当事者として、労働組合とともに自主的法規範の形成者となり、協約上の権利義務を取得する能力を有する使用者であり、労基法にいう使用者とは全く別個の概念でなければならない。そればかりでなく、不当労働行為制度の中心も、旧労組法が現実の行為者に対し刑罰を科するのと異り、現行労組法においては、地労委の命令による原状回復そのほかの民事的救済をその制度の中心とすることに移り、従つて、使用者の観念も、行為者でなく、原状回復の法的責任者という観点から考えられるべきで、現実に不当労働行為に該当する事実を何人が行つたかの問題と、右事実により損われた損害を何人によつて回復させるかの問題は別個のものとして考えなければならない。従つて、救済命令の相手方は、行為者でなく、現実に原状回復を可能とする使用者、すなわち最終的な責任帰属者であり、事業主体として原状回復を行う力を有するもの、でなければならず、不当労働行為制度において、原告会社とは独立して権利義務の主体たりえない原告支店が、独立して原状回復の法的責任を負うことはありえない。さらに被告委員会は、確定判決により支持された救済命令に違反した者が刑罰を科せられることと、救済命令において原状回復の手段として使用者に適当な処置を命ずることとは全く別個であると主張するが、右刑罰は救済命令の実効を確保するために存するのであるから、これを別個のものとはいえないし、また被告委員会のこの点の主張は、救済命令確定後これに従わない使用者に対し過料の制裁が規定されているのを看過したもので失当である。」と附陳した。(立証省略)

被告委員会は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告等主張の事実中、被告委員会が申立人訴外労組、相手方原告両名間の昭和二十八年(不)第一号不当労働行為救済申立事件につき、同年八月三十一日付で本件救済命令を発し、同年九月二日原告等に右命令書を交付したこと、同年四月二十一日の公益委員会議で訴外労組に対する資格審査を行つたこと、右救済命令において原告支店をも使用者として取扱い、これに対しても右命令を発したこと、はいずれも認めるが、本件資格審査及び救済命令が違法であるとの主張はすべて争う。すなわち、

第一、本件資格審査は労組法及び規則の定めるところに従い、適法かつ有効に行われたもので、昭和二十八年四月二十一日公益委員片岡政雄、平山三喜夫、石黒巖の出席する公益委員会議で慎重審議し、合議の結果全員一致をもつて訴外組合を適法な労働組合であることの資格を認定したものであつて、何等の違法はない。

第二、(一) 本件救済命令が原告会社のほか原告支店をもその相手方として発せられたのは適法である。不当労働行為救済申立事件において被申立人たる使用者の範囲をいずれに限定するかは、労組法及び規則には明文の規定がないが、労組法上の使用者とは、『使用者本人又は直接間接を問わず使用者の利益を代表する者』を指すと解すべきであつて、使用者が株式会社である場合、これを代表すべき取締役はもち論、支配人そのほか登記の有無にかゝわりなく、いやしくも会社の利益を代表し、不当労働行為の対象たる作為、不作為をした者をも汎称することが明らかである。本件(不)第一号事件における審査の結果によれば、原告支店は原告会社の支店で、同支店長は原告支店を代表する広汎な権限を有し、現実に右支店長は原告支店を代表して本件救済命令に認定した不当労働行為をしており、原告支店に対応する労働組合である訴外労組の会津若松分会、またはいわゆる第二組合である原告支店の再建労働組合との間において、団体交渉その他の自主的活動をしていることが明白で、労組法上、(不)第一号事件における使用者として被申立人としての適格を有し、かつ、本件不当労働行為に対する救済命令の実効を期するためにも、原告支店を被申立人とすることは必要欠くべからざる事由が存する。そうして救済命令確定後これに違反した者に対し罰則が適用されることがあるということゝ、行政庁である被告委員会が不当労働行為の救済のため、適当な処置を講じ、使用者をして救済命令に基く原状回復を履行させることゝとは全く別個であるから、前者の観点から本件救済命令の効力を云々することは失当である。

(二) かりに、原告支店に、(不)第一号事件における被申立人たる適格がなく、従つてこれに対してされた本件救済命令が無効であるとするも、原告会社に対する本件救済命令の効力には影響がないから、この部分につき違法として取消されるべき理由はない。

第三、本件救済命令の主文とその理由にくいちがいはない。原告等の引用する主文の陳謝文の内容は、業務課長渡部竹三及び支店長高橋倉市の支配介入に関するものであり、またその引用する理由中の説明は、第二組合についての訴外労組の申立を棄却する判旨理由であつて、原告等が第二組合の結成、加入につき支配介入し不当労働行為をした、ということゝ、原告等の支配介入が第二組合の結成、加入につきその原因の一部をなす、ということゝは、何等矛盾しないことはいうまでもない。

第四、本件救済命令の理由に主張摘示の誤謬はない。すなわち、

(一)  『申立人の主張』として摘示された事項は、その審査(調査、審問)に際し十分明確にされており、訴外労組及び原告等において十分弁解、立証の機会を与えられていたものである。

(二)  原告等は、昭和二十八年五月五日の調査に際し、再建労働組合の届出は同年四月十六日である旨を陳述し、かつ同年五月三十一日の審問期日において右調査の結果を援用しているのであるから、被告委員会が右届出の日時を認定したのは適法である。

第五、本件救済命令には、事実誤認、採証法則違背などの違法はない。被告委員会は、法定の手続に従い、審査を遂げ、証拠に基き事実認定を行つたもので、その間に違法は存しない。

以上のとおり、本件救済命令は適法有効であり、原告等の本訴請求は失当である。」と述べた。(立証省略)

理由

まず職権をもつて原告支店に原告としての訴訟当事者能力があるかどうかにつき考えるに、原告支店は原告会社の支店であるところ、支店は会社の営業所の一つで、法人である会社自体の組織の一部を構成するものにすぎず、それ自体、法律上独立して権利、義務の主体となりえないものであることが明らかである。従つて原告支店は訴訟当事者能力を有しないから、その提起した本訴は、不適法であつて、これを却下すべきものである。

次に、原告会社の本訴請求について判断する。

まず、被告委員会が申立人訴外労組、被申立人原告両名間の昭和二十八年(不)第一号不当労働行為救済申立事件につき、同年八月三十一日付で別紙記載の主文を有する救済命令を発し、同年九月二日原告等に右命令書を交付したこと、右事件の審査に入るに先立ち、右事件の申立てられた日の翌日である同年四月二十一日の公益委員会議で、訴外労組に対する資格審査を行つたこと、はいずれも当事者間に争いがない。

原告会社は右資格審査の手続の違法を主張するので、順次判断する。

(一)  昭和二十八年四月二十一日の公益委員会議の招集手続について。

いずれも成立に争いのない甲第四号証、第六号証、乙第一号証、証人堀江栄七郎、片岡政雄の各証言を総合すれば、本件資格審査のための公益委員会議(第八十二回公益委員会議)の招集は、昭和二十八年四月二十一日の午前中、被告委員会の五名の公益委員に電話で通知され、同日午後四時三十分から、同六時三十分までの間、片岡政雄(会長)、石黒巖、平山三喜夫の三公益委員及び被告委員会の事務局から堀江審査課長、橋本主事出席の上開かれたこと、公益委員中村常次郎は、差支えのため同日午後五時過頃出席する旨を電話で届出たが、その出席を待たず同会議が開かれ、結局同委員は欠席し、また公益委員和久幸男も欠席したこと、訴外労組が、不当労働行為救済申立並びに法人資格取得のため、昭和二十八年四月二十日被告委員会に提出した労働組合資格審査申請書(甲第四号証)には、訴外労組が昭和二十二年八月十四日法人登記を経た旨の記載があつたが、当時訴外労組は実際には法人資格を有していなかつたので、被告委員会は訴外労組が第二組合との間の財産処分問題につき法廷闘争をするため早急に法人資格を取得する必要があるから早く資格審査をしてもらいたいとの申出をそのまゝ取上げて、急拠同会議を招集するにいたつたこと、本件資格審査後、昭和二十九年一月二十日において、なお訴外労組の法人登記手続がされていないこと、がいずれも認められる。

ところで規則第八条第二項によれば、公益委員会議の招集は「緊急やむを得ない場合」のほかは、少くとも前日までに、付議事項及び日時を通知してしなければならないところ、本件の第八十二回公益委員会議は右の事前通知なしに招集されているのであるから、右「緊急やむを得ない場合」にあたる事情があつたかどうか考えてみるに、一般に、たゞ法人資格を取得するために必要であるという事情だけではこれに該らないといわなければならない。また、本件のように、法人資格を取得する目的が、第二組合との間の財産処分問題について早急に法廷闘争する必要に基くという場合であつても、それが一日二日を待つことのできないほど急を要するものということはできない。従つて右公益委員会議は、緊急やむを得ない場合でないのに、これにあたるものとして招集された違法がある。しかし、公益委員会議招集の手続に右のようなかしがあるというだけで、右公益委員会議の議事までが直ちに違法性を帯有するにいたるものと解すべきではない。たゞ公益委員のある者が、招集手続の違法を主張して会議の開催に反対し、欠席したような場合は問題であろうが、公益委員の全員が異議なく出席したとき、またある公益委員は、単に病気その他の事由によつて会議に出席することができない旨を会長に通知したが、過半数が出席したときは、招集手続の右かしは治ゆされたものと解するのを相当とする。本件では過半数の公益委員が出席し、且つ欠席した公益委員もその開催に異議を述べた事跡がないのであるから、その招集の手続に右のような違法があつたからとて、それがために会議の議事までが違法であるということはできない。

(二)  本件資格審査の内容について。

元来、資格審査は、申立労働組合が労組法第二条及び第五条第二項の規定に適合するかどうかを認定する手続であるところ、同法第五条第二項は、労働組合の規約には、同項各号に定めるような規定、すなわち労働組合が民主的なものであるために必要な最低限度の要件を満たす規定、を含んでいなければならないことを要求するものにすぎないから、地労委において、当該労働組合が同法第五条第二項に該当するかどうか、を認定するにあたつては、同条項の趣旨、体裁から考えても、もつぱら組合規約につき同条項の要件を満たしているかどうかを審査すれば足りる、というべきであるが、他面、同法第二条は、本来労組法上の労働組合であるための資格要件を定め、特に労働組合が実質的に自主性を有することを要求する規定であるから、地労委において、当該労働組合が労組法第二条に該当するかどうか、すなわち自主性を有するかどうかを認定するにあたつては、単に、当該労働組合の組合規約や労働協約の文言だけでなく、その実体につき実質的に審査しなければならないものといわなければならない。そこで本件において訴外労組に対する資格審査がどのように行われたかを考えるに、甲第四号証、乙第一号証、成立に争いのない甲第五号証、証人堀江栄七郎、片岡政雄の各証言を総合すれば、被告委員会は、訴外労組が資格審査の申立に際し提出した申請書(甲第四号証)とその添付書類である組合規約、労働協約及びこれらの附属書類組合役員及び専従者名簿、組合専従者に関する規程、組合会計関係書類、組合組織形態などの書類を、まず事務局職員に調査させその翌日開かれた第八十二回公益委員会議において、右提出書類のうち問題となつた二、三の点について極めて形式的に討議したのにすぎず、そのほかの点については、被告委員会が昭和二十七年八月に訴外労組の各分会につき資格審査を行つてその適格性を認定した当時と変つていない、という事務局職員の報告をきいただけでそれ以上何等の調査をしなかつたこと、そうして右の事務局職員の報告の基礎となつた調査資料は右訴外労組の提出した書類だけであること、訴外労組の各分会につき前回の資格審査の後である昭和二十七年十二月頃に原告会社の職制が変更されているのに、本件審査において、原告会社の職制、組合員の範囲、職務内容などにつき具体的に調査した形跡のみられないこと、がいずれも認められる。従つて本件資格審査は、訴外労組が労組法第二条に該当するかどうかの認定につき極めて形式的にすぎ、その実質的調査が充分にされたものと認めることはできない。そればかりでなく、資格審査における地労委の認定、判断の当否は、結局裁判所がこれを判断することになるのであるが、訴外労組が労組法第二条に該当する労働組合であること、従つて、被告委員会がこれに該当するものと認定したのが正当であることを認定させるに足りる証拠もないから、要するに、本件資格審査は、その審査の方法、内容において違法であるといわなければならない。

(三)  本件資格審査の決定書について。

元来資格審査は、これによつて当該労働組合に労組法あるいは労調法上の救済を求める資格を与えるかどうかを認定する手続であつて、資格審査の結果、労組法の規定に適合しないと認められた労働組合のした不当労働行為救済の申立は、その実体の審理に入ることなく却下されるべきものであるから、いわば不当労働行為救済申立事件の審査に論理的に先行する手続であるということができ、また規則第二十五条は、資格審査の結果について必ず決定書を作成し、地労委会長がこれに署名押印しなければならないことを規定しているのであつて、たんに公益委員会議が決定しただけでは、まだ行政機関の内部的な意思決定にとゞまり、決定書の署名押印によつてはじめて資格審査決定という行政処分として外部的に成立し、その効力を生ずるものというべきであるから、資格審査の決定書は、不当労働行為救済申立事件の審査を開始するまでに、あるいは遅くとも、右審査開始後、救済命令が発せられる時までに、必ず作成されていなければならない。ところが、いずれも成立に争いのない甲第七号証の一ないし五、乙第二号証の一、二、証人寺門精太郎、中島隆三、関政輝、片岡政雄の各証言を総合すれば、訴外労組が労組法第二条、第五条第二項の規定に適合する旨の資格審査決定書(乙第二号証の一)には、昭和二十八年九月十六日なお被告委員会の会長片岡政雄の署名押印がなく、その翌十七日はじめて右決定書が作成されたことが認められ、被告委員会が本件救済命令の命令書を原告会社に交付したのが同年九月二日であることは前に述べたとおりであるから、本件救済命令の発せられた当時なお本件資格審査決定書は作成されていなかつたことになり、当時本件資格審査の決定はその効力を生じていなかつたことになる。

このように本件救済命令は、前記(二)に述べたような違法な資格審査を前提とするものであり、また前記(三)に述べたように資格審査決定の効力の生じていない間に発せられたものであるから、違法であるといわなければならない。そして右の違法は、後日資格審査決定書が作成されても治ゆされるものではないと解する。

次に、原告会社は、本件救済命令にその処分の相手方を誤認した違法があると主張するので判断する。

本件救済命令が原告会社のほか原告支店をもその相手方として発せられたものであることは当事者間に争いがない。ところで、不当労働行為救済申立事件の被申立人が使用者であることは規則第三十二条第二項の規定から明らかである。そして使用者が法人である場合、その相手方となりうるものが法人自体であることは疑ないが、そのほかに現実に不当労働行為をした行為者も相手方となり得るかどうかについては、議論の分れるところである。これをいずれに解するにしても、救済命令の相手方となるためには、少くともそのものが私法上権利義務の主体となりうるものでなければならない。そうでなければ、これに対して救済命令を発すること自体法律上無意味であるからである。ところが、原告支店が法律上独立した権利義務の主体でないことは前に説明したとおりであるから、本件救済命令のうちこれに対して発せられた部分は、その相手方となりえないものを相手方とした違法があつて、当然無効であるといわなければならない。しかし、本件救済命令のうち、原告会社に対する部分は、これによつて何らの影響を受けるものでないことが明らかであるから、これを当然無効とはいえない。

ところで原告会社は本訴において、本件救済命令のうち原告支店に対する部分の取消をも請求しているものと解せられるから、原告会社に、右の部分の取消を求める法律上の利益があるかどうか考えてみるに、本件救済命令のうち右の部分は当然無効であるけれども形式上はなお成立しているものであり、また、原告支店は原告会社の組織の一部であつて、これに対する法律行為の効力も最終的には原告会社自体に帰属するものであるから、原告会社はこの部分の取消を求める法律上の利益を有すると解する。

以上のように、本件救済命令のうち、原告支店に対する部分は当然無効であるが、形式上存在するのでこれを取消すべきであり、また原告会社に対する部分は当然無効とはいえないが、前述のとおり違法であるから、そのほかの争点について判断するまでもなくこれまた取消すべきものである。従つて、これが取消を求める原告会社の本訴請求は正当として認容すべきものである。

最後に、訴訟費用の負担につき考えるに、訴外高橋倉市は原告支店の代理人として本訴を提起したが、原告支店は当事者能力がなく、当事者能力のないものゝ代理人となることは不能であるから、同訴外人は、民事訴訟法第九十八条第二項の法定代理人として訴訟行為をした者がその代理権を証明することのできない場合の法定代理人と同視して差支えないのであるから、原告支店と被告委員会との間に生じた訴訟費用は、民事訴訟法第九十九条の規定を類推適用し、同訴外人に負担させるべきものである。

そこで民事訴訟法第八十九条、第九十五条、第九十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 杉本正雄 松田冨士也)

(別紙省略)

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